Takuya A's Beer Collection
Takuya A's Beer Collection

一日の終わりに、寛ぎながらグラス片手にビールを嗜む。
今日も一日お疲れさまでした、無事平和に過ごせたことに感謝する。

書籍

開高健 著『ロマネ・コンティ・一九三五年』


2021/7/24

読了。’70年代に著者が執筆した短編小説6編収録。中国/ヴェトナムでの旅行記、魚釣りと酒・料理、職場と下町の日常、”ロマネ・コンティ 1935年” を嗜む際の感受性&想像力豊かな表現、緻密で繊細な情景描写と文章に圧倒される??

P.64
「食べる(マンジェー)のです。私たちはそう言います。食べる。阿片は食べるものなんです。吸うのではありません。食べるのです。」

P.178
二つのグラスに歴史がなみなみと満たされ、二人の男はグラスごしに茫然としたまなざしをかわしあい、微笑し合った。

P.179
暗く赤い。瑪瑙の髄部のように閃きはなく、赤からはるかに進行して、褪せた暗褐に近いものとなっている。先のラ・ターシュは無垢の白い膚から裂かれて朝の日光のなかへほとばしりでた血であったが、これは繃帯に沁みでて何日かたち、かたくなな顔つきでそこにしがみつき、もう何事も起こらなくなった古血である。澱んで腐りかかった潮のようなところもある。太陽はいよいよ冬の煙霧のなかで衰え、窓を蔽いかけている黄昏のすぐ背後には誤りようなく夜と名ざせるものが大きな姿をあらわしている。広い、無残な、ひからびた干潟のあちらこちらに赤や青の小さな閃光が音もなく炸裂しはじめている。光も、光めいたものも、何もこの室にはとどきそうもない。たとえ朝の日光があり、昼の日光があったとしても、このどろんとした暗褐の澱みには光耀も影も差すまいと思われる。もしその闇に大陸があるのなら、おそらくは史後期のそれか。

P.217
この酒は生きていたのだ。火のでるような修業をしていたのだ。一九三五歳になってから独房に入って三七年になるが、決して眠っていたのではないのだ。汗みどろになり、血を流し、呻き続けてきたのだ。

開高健 著『ロマネ・コンティ・一九三五年』 https://amzn.to/3qRaDr0

https://twitter.com/akashi_takuya/status/1418815716921253888